お口の病気

虫歯のメカニズム

餓蝕うしよくdentalcaries,dentaldecay【病】
口腔内細菌の関与の下に歯質(エナメル質、象牙質、セメント質)の無機塩の脱灰と有機質の溶解を伴う、歯質の崩壊を主な変化とする疾患である。しかし、その進行過程において、ただ一方的に歯質の崩壊が繰り返されるのではなく、一時的にせよ、少なくとも一度脱灰された基質に再石灰化という現象が存在する事実が認められている。

新常用歯科辞典より抜粋



すなわち、う蝕(むし歯)とは細菌が糖を利用してお口の中に酸を作り、その酸によって歯が溶けてしまう(脱灰といいます)疾患をいいます。
(糖は砂糖だけではなく、ご飯やパンなど、非常に多くのものに含まれています)
また、虫歯はどんなに頑張って歯磨きをしてもできてしまうものではなく、しっかりと予防を行えさえすれば確実に防ぐことができる病気なのです。

近年では、特定の細菌が齲蝕発生に関与していることが判明し、う蝕が細菌による感染症であるという考えが広く認識されておりますが、他の感染症と異なり、食生活など、さまざまな環境によってその発症および進行が左右される生活習慣病としての側面も同時にもちあわせている複雑な疾患でもあります。
また、歯のエナメル質・セメント質は唾液の成分によって保護されていますが、砂糖(ショ糖)の入った食物などの摂取でひとたび環境が変わると、少しずつ脱灰が進んでいきます。

しかし、唾液の働きなどにより再び環境が改善されると歯は再石灰化が促進されます。
こうして、口の中では常に脱灰と再石灰化が繰り返し行われているため、ごく初期の虫歯であれば健全な状態まで回復する可能性のある疾患であることも明らかになってきているのです。

唾液の働き
脱灰と再石灰化

脱灰と再石灰化


歯の構造と組成
歯の構造と組成










お口の中に見える歯の表面はエナメル質で覆われています。さらにその中には、象牙質や歯髄(神経と血管、リンパ管などが複雑に絡み合っている組織)という構造があります。歯根の部分はセメント質により覆われ、その周りには歯根膜があり、それをはさんで歯槽骨という骨により歯が支えられています。






歯の組成歯は、骨とよく似た硬組織のひとつです。これら硬組織の硬さは、無機質の多さに起因しており、エナメル質にいたってはそのほとんどが無機質からなり、人体の中で最も硬い組織になります。

無機質の中でも、カルシウム(Ca)とリン(P)は、硬組織に共通して多く、その比率は一定しており、(2:1前後)多くはハイドロキシアパタイトCa10(PO4)6(OH)2という形で存在しております。またそれら無機質の分布はエナメル質、象牙質、骨といった部位によりばらつきがあります。



う蝕を誘発する主な細菌
ミュータンス連鎖球菌

非常に強い酸産生能、付着能、耐酸性が高く、う蝕の発症および進行全てに深く関わっています。近年では、う蝕はこのミュータンスレンサ球菌による感染症であるという説が通説となってきました。これらのうち、ストレプトコッカスミュータンスとストレプトコッカスソブリヌスの2種の菌は特に強いう蝕原性を示すと注目されています。




ラクトバシルス菌

ミュータンスレンサ球菌と同様に強い酸を産生し、さらにより高い耐酸性能を持っていますが、この菌そのものには付着能がなく、深いう闇などに存在するため、う蝕の進行に関与しているといわれています。





初期う蝕
初期う蝕左の写真の赤い矢印の先の白い部分はCO(虫歯のごく初期の状態)の状態を示します。発酵性の糖質の摂取によって細菌が産生する酸が長期間にわたり作用した結果、歯の表面からリンやカルシウムなどのミネラルが溶け出てしまうと、このような白色の脱灰病変の状態を表します。

脱灰により失われるミネラルと再石灰化によって獲得されたミネラル量の均衡がとれていればミネラル量について歯質には変化が認められませんので、肉眼的観察によってもエナメル質表面に白斑は認められません。

また、すでにある白斑は、そのまま進行することなく白斑状態のまま進行を停止しますし、脱灰よりも再石灰化が促進され、獲得されるミネラルの量が健全部と同程度まで回復すれば白斑は自然に消失していきます。