お口の病気

フッ化物配合歯磨剤について

フッ化物配合歯磨剤はブラッシングが習慣として定まっている人々にとって有用なフッ化物の供給源であり、毎日の歯みがきだけでフッ化物の恩恵を受けることを可能にします。世界保健機関(WHO)では、全ての人々にフッ化物配合歯磨剤の使用を推奨し、世界中にフッ化物を供給する重要なシステムであると述べています。
わが国を含め、多くの国で、フッ化物配合歯磨剤のシェアは90%に達しており、様々なフッ化物応用法の中で圧倒的に多数の人々に利用されています。先進諸外国では、この30年間にむし歯の大きな減少を経験していますが、フッ化物配合歯磨剤の普及が共通の要因であると評価されています。

わが国では、フッ化物配合歯磨剤は医薬部外品として位置づけられ、配合フッ化物は、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化スズ(SnF2)、モノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)の3種類が承認されており、いずれの場合もフッ化物濃度は1,000ppm(0.1%)以下と規定されておりましたが、2017 年 3 月には、フッ化物配合歯磨剤のフッ化物イオン濃度の上限を1500ppmとする高濃度フッ化物配合歯磨剤の医薬部外品としての市販が厚生労働省により新たに認められました。
また、これと同時に、日本歯磨工業会が「高濃度フッ化物配合薬用歯みがきの注意表示等について自主基準を策定 した 結果、厚生労働省はこれにならい 3 月 17 日「フッ化物を配合する薬用歯磨き類の使用上の注意について」という以下の通知が付加されました。

1. 使用上の注意として、以下の事項を直接の容器等に記載すること。ただし、十分な記載スペースがない場合には、(2)の記載を省略してもやむを得ないこと。
(1)6 歳未満の子どもには使用を控える 旨
(2)6 歳未満の子どもの手の届かない所に保管する 旨
2. また、 フッ化物のフッ素としての配合濃度を直接の容器に記載すること 。ただし、1.の記載と別の記載箇所であっても差し支えないこと。
3. 製造販売承認申請書の備考欄の使用上の注意については、「使用上の注意:平成 29 年 3月17日付薬生薬審発0317第1号、薬生安発0317第1号医薬品審査管理課長・安全対策課長連名通知による。]と簡略記載して差し支えないこと。なお、その他追記して記載すべき事項があれば記載すること。

a.フッ化物配合歯磨剤の有効性

フッ化物配合歯磨剤のむし歯予防のメカニズムは、エナメル質、特に初期むし歯病巣へのフッ化物沈着による再石灰化の促進と、歯垢中へのフッ化物の蓄積です。歯垢中のフッ化物は、抗菌作用の他に、フッ化物の蓄えとして機能し、むし歯侵襲時に脱灰の抑制とともに再石灰化の促進に寄与します。

フッ化物配合歯磨剤の有効性に関する研究については、1945年以降多数の研究が行われています。わが国の主な調査によると、う蝕抑制率は効果なしの0%~40%までと広範囲にわたり、個々の研究は、配合フッ化物の種類、研究期間、対象者を管理下に置くかどうか、対象者の年齢などと背景が異なりますが、フッ化物を含まない歯磨剤との比較研究で、研究の約半数が統計学的に有意差が得られなかったのです。このことを踏まえると、全体としてむし歯の予防効果は20%程度とみるのが妥当なようです。しかし、成人から高齢者にかけて歯周病などによって歯肉の退縮がおこり、治療困難な歯根面むし歯が多発してきますが、この歯根面むし歯の抑制に効果的であるという研究もあり、有望であると考えてよいでしょう。

わが国では、水道水フロリデーションが実施されておりませんしフッ化物錠剤もありませんので、フッ化物配合歯磨剤は、低年齢児が日常的に利用できる唯一のフッ化物供給源になります。

b.フッ化物配合歯磨剤の効果的な利用法

ブラッシングやブラッシング後の習慣に関する研究から、フッ化物配合歯磨剤の効果的な利用法として、(1)ブラッシングの回数を1日2回以上使用すると有意に歯垢中のフッ化物濃度の上昇がみられること、(2)継続的に使用すること、(3)ブラッシングの実施時間は就寝時が効果的であること、(4)使用する歯磨剤の量を0.5g以上とすること、(5)ブラッシング後の洗口回数を少なくすること、(6)ブラッシングの直後の飲食を避けること、などが挙げられています。

c.フッ化物配合歯磨剤の安全性

まず初めにお伝えしたいのは適切な濃度と使用量を守れば安全であるという結論が得られております。
歯医者さんで塗ってもらう9000ppm濃度のフッ化ナトリウム(APF:リン酸酸性フッ化物)や、フッ化物配合歯磨剤、フッ化物配合洗口剤(ミラノール)などがありますが、これらは一日にすべてを使用したとしても全く安全な量と考えられます。しかしながら、一方で以下のような反対論を唱える人たちも存在していることも確かです。フッ化物配合歯磨剤の安全性は、洗口や吐き出しのできない年齢層の口腔内残留フッ化物量が問題となります。ある研究によると、1~4歳児ではブラッシング後、49%が口をすすがず、また、すすいでも吐き出しができるのは2.5歳未満児で5%、2.5~4歳児で32%でした。すなわち4歳以下では、使用した歯磨剤のほとんどを飲み込んでいるとみることができます。一方、歯のフッ素症の発現リスクは、6歳以下の幼小児期に集中し、とくに、審美的に問題とされる上顎中切歯が歯のフッ素症にかかる臨界期は1~3歳であるので、低年齢児によるフッ化物配合歯磨剤の使用が「歯のフッ素症のリスク・ファクター」としての意義が議論されております。
また近年1500ppm濃度の歯磨剤が厚労省の認可を得て発売されましたが、6歳未満の子供には使用を控えることという記載がされております。

したがって、当院では6歳未満の幼児にはフッ化ナトリウムの塗布はもちろんのこと、1000ppmフッ素配合歯磨き使用の推奨もいたしておりません。6歳未満の幼児においてフッ素配合歯磨剤を用いる場合には、量を少なめにして用いるか、キャナリーナ100(メディカルビーブランド社製)というものを使用していただいております。

d.フッ化物配合歯磨剤の使用と歯のフッ素症

幼児によるフッ化物配合歯磨剤の飲み込みにより、歯のフッ素症の発現率とその症度が増加するかどうかが、水道水フロリデーション地域と非調整地域の両方で観察されました。これらの研究では、2、3歳からという「早期使用」ほど、また「歯磨剤を好む、歯磨剤を飲み込む」という傾向にあるとき、水道水フロリデーション地域での「累積使用」が歯のフッ素症の有意な、あるいはそれに近い誘因としてあげています。

フッ化物応用法が複合的に利用されている欧米諸国では、幼児による歯磨剤からのフッ化物摂取が歯のフッ素症の発現率や症度の増加に関るリスク・ファクターとして懸念されています。そこで、WHOをはじめとする専門団体は、6歳未満児のフッ化物配合歯磨剤の使用に関するガイドラインを提示しており、そこには、両親による歯磨きの実施や監督、歯磨剤の「pea-size(豆粒大)」の使用量、小さな毛先部分を持つジュニア・サイズの歯ブラシの使用、歯磨剤チューブの供給口の縮小、および注意を促すラベル標示などが含まれています。

e.6歳未満児におけるフッ化物配合歯磨剤の使用に関する注意事項

6歳未満児におけるフッ化物配合歯磨剤の使用についての注意事項を列挙すると、つぎのようになります。すなわち、(1)使用量はpea-size(豆粒大)で幼児用歯ブラシの1/2の量を規準とする。(2)3歳未満では1日1回、3歳以上では1日2回(就寝時と他に1回)使用する。(3)幼児が白分で磨くときは、適量の歯磨剤を保護者が歯ブラシにとり、ブラッシングの間、監督する。(4)歯磨剤の吐き出しや洗口を練習させる。(5)使用直後の飲食を控える、などです。