横浜市港北区米山歯科クリニック 歯周病の不思議

■歯周病の不思議

これからは歯周病の不思議と題して、お話しを進めていきたいと思います。当然、皆さんは歯周病という病気に対して下記のような疑問を持たれると思うのですが、これらの疑問に対する答えは、歯周病の原因がすべてバイオフィルムによる感染症であるからということになるのですと、「歯周病について Part 2 」でお話しさせていただきました。

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バイオフィルムというものがどういったものなのか、「バイオフィルムって何なの?」で少しお分かりいただいたところで、具体的に上記の疑問に答えてみたいと思います。


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歯周病はバイオフィルムによる感染症であるため、その形成基質である菌体外重合体物質(EPS)には抗原性がなく液性(特異)免疫が働かない上に、EPS に阻まれて好中球やマクロファージなどの食作用である細胞性(非特異)免疫も直接的に働くことができないのです。
さらに歯周病細菌には細菌の周囲を覆う粘液性の糖衣(グリココッカス)からなる莢膜構造を有しており、やはり好中球やマクロファージなどの食作用が直接的に働くことができません。
このように生体がもともと有している免疫機構が非常に働きにくいため、80%以上もの人が歯周病にかかってしまうのです。


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抗生物質は浮遊している細菌には有効ですが、付着してバイオフィルムとなった場合には、その形成基質である菌体外重合体物質(EPS)に阻まれて、抗生物質や抗菌薬などが浸透できないのです。
浮遊細菌では0.5㎍/mlくらいの濃度で歯周病細菌は増殖を停止するが、バイオフィルムになると250㎍/mlくらいの濃度が必要となります(薬物耐性が500倍にもなる)。
また抗生物質の内服では局所濃度は15㎍/mlが限界であるので、歯科医師が内科的スタイルで抗生物質を投与しても効かないのです。
またバイオフィルム中心部の細菌は栄養状態が豊富でないため静止状態にあるとともに代謝活性も低いため、代謝を阻害するような抗生物質はもともと作用できませんし、抗生物質をずっと服用し続ければバイオフィルムの新しい形成は阻害できますが、服用しなくなれば、またクオラムセンシングシステムが働き増殖を再開しますので、薬では治りにくいのです。


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歯周病細菌の病原性は極めて弱く、代表的な歯周病細菌である P.gingivalis などの内毒素の生物活性は大腸菌などの一般細菌に比べ極めて低いのです。
そのために、痛みもなく、ゆっくりと静かに歯周病が進行していきます。
また、歯周病はバイオフィルム感染症であるため、細菌自らが自分たちの増殖をコントロールし慢性的、持続的に感染を引き起こします。
以上のような理由によって、歯周病という病気は慢性炎症の形で進行しやすく、痛みもなく、ゆっくりと静かに進行していってしまうのです。


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歯周病の原因であるバイオフィルムは非常に強く歯の表面や歯肉に付着しているため、歯ブラシで少しくらい擦ってみてもそう簡単には落とせないのです。
みなさんの身近なところに存在しているバイオフィルムの例を先にお話ししましたが、三角コーナーのヌルヌルやお風呂場のヌルヌルはブラシで擦ってみてもそう簡単にはきれいにならないでしょう。
ましてやお口の中には歯があるため、その形態は山あり谷ありのデコボコだらけですね。
そのために、みなさんが行っている歯ブラシだけでは、バイオフィルムを落としきることができずに歯周病になってしまうのです。


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私たちのお口の中には親知らずを除いて28本の歯がありますが、歯周病という病気はお口の中全体に形成されたバイオフィルムの感染によって発症しますので、28本すべての歯に同時に進行していきます。仮にすべての歯の全周に深さ5㎜の歯周ポケットが形成されたと仮定した場合には、歯肉縁下バイオフィルムに接して炎症を起こしてしまったポケット上皮の総面積は72㎝2にもなります。
これは大人の手のひらの面積とほぼ同じですから、一般の方々が歯周病のイメージから想像するよりもはるかに大きな範囲で炎症が引き起こされ、細菌と生体のせめぎ合いが行われていることになるわけです。
もし、お口の中ではなく他の身体の部位に、こんなに大きな炎症が存在していたとしたら大変な影響を及ぼすことでしょう。
また歯周病はいわゆる慢性炎症性疾患ですから、炎症歯周組織においては、様々な炎症関連物質が持続的に産生されているのですが、その影響が歯周組織から全身にも波及すると考えると、歯周病が全身に何らかの影響を及ぼし得ることが容易に想像できると思います。