■歯周病と全身疾患
高齢化社会とは高齢化率(65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合)が7% - 14%のことをいい、高齢社会とは高齢化率が14% - 21%、超高齢社会とは高齢化率が21% 以上のことをいいます。日本では1970年には高齢化率が7%を超え高齢化社会になったのをはじめとし、1995年には14%を超え高齢社会となり、2007年には21%を超え超高齢化社会となりました。
このように日本では高齢化が世界で類を見ないスピードで進行しているわけですが、肺炎による死亡は、悪性新生物、心疾患、脳血管疾患についで第4位となっており、平均でみると肺炎による死亡者は1日300人を超え、その92%は65歳以上の高齢者となっているのです。
誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia)は、お口の中にいる細菌の不顕性誤嚥(Silent aspiration)が原因となります。
誤嚥は、嚥下反射と咳反射の低下などに伴って生じ、特に脳血管障害の見られる高齢者に多いのですが、そのような高齢者のお口の中には、デンタルプラーク(歯についたバイオフィルム)やデンチャープラーク(入れ歯についたバイオフィルム)だけでなく、歯周ポケット内、舌背、頬、咽頭、粘膜などにさまざまな微生物がバイオフィルムを形成しているわけですが、それらのバイオフィルム形成細菌や細菌が付着した剥離細胞が唾液に混入して、唾液といっしょに誤嚥され下気道に流入することが原因となっているのです。
実際に高齢者の肺炎から分離される細菌としては、左の表のようにPorphyromonas gingivalisなどの嫌気性歯周病原性細菌が最も多いのです。
また、人工呼吸器を口腔や鼻から入れているICU(集中治療室)などで治療を受けられている患者さんにおいては、人工呼吸器関連性肺炎になる危険性が極めて高くなるのですが、発症しますと死亡率も高く、回復しても入院期間が非常に長引いてしまいます。
また、インフルエンザなども歯周病が存在するとかかりやすくなるといわれております。通常咽頭粘膜にあるウイルスレセプターは唾液の糖タンパクにより隠されているのですが、歯周病細菌が出すタンパク分解酵素はこの糖タンパクを分解しウイルスレセプターを露出させてしまうため、ウイルスが身体に侵入しやすくなってしまうのです。またブドウ球菌や緑膿菌のタンパク分解酵素はインフルエンザウイルスの表面抗原であるHA1というものを修飾して、細胞にウイルスが侵入しやすい環境をつくっているとも考えられているのです。したがって、様々な呼吸器疾患を防ぐためにも常に口腔内を衛生的に保つ必要があるのです。