■お口の中のがん(口腔がん)
●口腔がんの特徴
口腔がんは早期に発見されると、小さく病変を切り取るだけでほとんど口の働きに障害も残りませんし、がんで命を落とすこともほとんどありません。しかし発見が遅れて進行がんになりますと、首のリンパ節にがんが転移することで、肺や肝臓などの他の臓器に転移して命を失う可能性も高くなってしまいます。
日本では口腔癌は癌全体の約2%にすぎませんが、直接生命にかかわる重大な病気であることには違いはありませんし、最悪の事態は避けられた場合でも、口腔癌のために「食べる」、「飲む」、「話す」、「呼吸する」などといった、私たちの「生活の質」に直接深く結びついているお口の働きが大きく妨げられ、「生活の質」が著しく低下してしまう場合があります。
●日本では口腔がんが増え続けている
日本人の2人に1人が「がん」にかかり、3人に1人が「がん」で亡くなります。胃がんや肺がん、大腸がん、あるいは乳がんや子宮ガンがあることは知っていても口の中にがんができることを知らない人が多いのが現状です。口の粘膜にできた「あれ」や「痛み」はすべて口内炎で、放置しておいてもいずれ治ると考えている人が多いのです。日本では年間約7000人が口腔がんに罹患しており、その頻度は子宮頚部がんとほぼ同じですが、その認知度は低いのが現状です。
30年前の統計と比較してみますと、口腔がん患者は約3倍に増加しております。このままの増加率でいけば10年後には今の1.5倍となり1万2千人以上の人が口腔がんに罹患すると予測されます。アメリカやイギリスなど他の先進国では国を挙げてがん対策に取り組んでいる結果、罹患率は高いのですが1997年から5年間でアメリカの口腔がんの死亡者数は約1200人以上減少しております。またイギリス、フランス、イタリアといった他の先進国の口腔・咽頭がんの死亡率をみてもアメリカと同様に減少傾向を示しております。
ところが、日本では死亡率、罹患率ともに右肩上がりが続いていて、現在では毎年約7000人が口腔がんにかかり、亡くなる人も3000人を超えております。
ではアメリカを含めた先進国では、なぜ口腔がんによる死亡率が減少しているのでしょうか?その理由は国を挙げての積極的な口腔がん対策による早期発見、早期治療があります。特に各基幹施設や基幹病院が中心となって歯科医師や歯科衛生士を教育し啓発する体制が確立されていることが大きな要因となっています。
また一般の人にも口の中にもがんができることを知ってもらい、口腔癌検診などを広く普及させ口腔がんにならないように検診システムを構築することが、口腔がんで死亡する人を少なくすることにつながっているのです。
●口腔がんの統計
(口腔がんの性差と好発年齢)
左の図は年齢別・男女別口腔がん罹患者数を示したものですが、日本における口腔がんの年齢的な特徴は、年齢別では60歳代が一番多く30%、70歳代が25%、50歳代が22%となり、50歳以上が約80%を占めています。性別では。男性が59.1%、女性が40.9%で約3:2で男性に多く見られます。(頭頸部癌 32 Supplement 2006より改変引用)
(口腔がんの好発部位)
左の図は部位別口腔がん罹患者の割合を示したものですが、舌にできるがん(舌がん)が最も多く60%、下顎歯肉がん11.5%、口底9.6%、頬粘膜7.1%となっております。(頭頸部癌 32 Supplement 2006より改変引用)
●口腔がんの症状
いわゆる口内炎を思っていたら、口腔がんであったということが少なくありません。口腔がんは痛みを伴わないものが多く、特に早期がんでは潰瘍(かいよう)やびらん(粘膜のはがれや傷)のようないわゆる口内炎と区別がつかないことがあります。
口内炎は通常は長くても二週間程度で治りますが、持続するような場合には注意が必要です。 歯肉からの出血では歯周病との区別が必要です。
また、舌や歯肉、ほおの粘膜が赤くなったり白くなる症状を呈することもあります。それぞれ紅板症(こうばんしょう)、白板症(はくばんしょう)と呼ばれます。これらは粘膜の組織が、がんが発生しやすい状態に変化した『前がん病変』である可能性があります。
その他、かみづらい感じや、頬、舌に動かしづらさを感じる、舌などにしびれや麻痺を感じる、首のリンパ節の腫れが3週間以上続く、などの変化が表れることもあります。
●口腔がんの症例写真
舌がん
舌がん(舌にできるがん)は口腔がんの中でも最も多いがんです。そのほとんどで、舌縁部(舌の側面)や舌の裏側にでき、舌の上面にできることはほとんどありません。
粘膜面が、赤くなったり、白くなったり、表面が凸凹したり、潰瘍ができたりします。 触ってみて、何か粘膜の下に「かたまり」や厚みのある部分を触れたら要注意です。
虫歯や、歯ならびの悪い歯などで擦れるなどの機械的刺激が原因となる場合も少なくありませんので、その様な歯がある場合や合わない入れ歯やさし歯はきちんと治しておくことが大切です。
舌がん
開業医だから発見できる口腔がん そのサインの見つけ方と対処法より引用
歯肉がん
歯の生えている部分の粘膜を歯肉と言います。この部分の粘膜が赤くなったり、白くなったり、表面が凸凹したり、潰瘍ができたりします。
歯周病でもないのに、「歯がぐらぐらしてきた」や「腫れてきた」、「歯を抜いた後がなかなか治らない」などの症状のこともあります。歯ぐきの表側ではなく裏側にできることも多いので要注意です。
開業医だから発見できる口腔がん そのサインの見つけ方と対処法より引用
頬粘膜がん
いわゆる頬の内側、口の中の粘膜に出来るがんです。噛んだり、傷つけた覚えがないのに、粘膜面が、赤くなったり、白くなったり、表面が凸凹したり、潰瘍ができたりします。触ってみて、何か粘膜の下に「かたまり」や厚みのある部分を触れたら要注意です。親知らずの生える部分の粘膜部分も後発部位の一つです。
開業医だから発見できる口腔がん そのサインの見つけ方と対処法より引用
●口腔がんのセルフチェック
他のがんと同じように、口腔がんも早期発見により、治療で治すことができる場合が非常に多くなります。そして、自宅での定期的な自己検診や歯科医または歯科口腔外科医による徹底的な口腔癌の診察によって、口腔癌を早期に発見できる可能性を増やすことができます。
神奈川県歯科医師会では口腔癌検診協力医という有資格者と口腔外科専門医による口腔癌検診を行っております。
当院はもちろん口腔癌検診協力医に登録されておりますので、ご心配の方はご相談して下さい。疑わしい場合には専門医をご紹介させて頂きます。