お口の病気

■小児の歯科治療について

小児治療の成功のカギは無理せずあせらずです。
小児の治療に際しては、基本的に同伴される保護者のお母様やお父様にご自由に診療室内に入って頂き、治療内容をすぐそばで見て頂けるようにしております。また、この時期に受けた治療や治療体験はお子様が成長し大人になった時点にまで大きな影響を及ぼしてしまいますので、そういったことを考慮した上で現在の治療方針や治療方法を立案していきます。

今回は、このことについて、もう少し詳しく書かせていただこうと思います。
まず、無理せずあせらずの意味ですが、決してお子さんに対して強引なことをしないということです。
お母さまやお父さまが、お子さんをクリニックに連れていらした時、椅子にも座ってくれないし、お口もあけてくれないという状態だとしたらどうすれば良いと思われますか?

当然、お母さまやお父さまには一緒に診療室に入っていただきますし、ひとりで椅子に座れないお子さんにおいては、お母さまやお父さまの膝の上に座らせて診療させていただきます。
しかし、それでも泣き叫んでしまい、いっさい口をあけてくれないし、目さえ私と合わせようとしてくれない恐怖心がとても強いようなお子さんだったとしたらどうしますか。

私どものクリニックでは、お父さまやお母さまがお暇な時間に、お子さんと一緒に何度でもクリニックに遊びにきてもらっております。
当院にはお子さまが遊ぶためのおもちゃ、絵本、ディズニーのDVDなどが沢山用意してあります。

本来これらのおもちゃは、お母さまやお父さまが治療を受けられている間に、お子さんが退屈をしないように置いてあるものなのですが、こういったものを使ってクリニックの中で繰り返し繰り返し遊んでもらうことによって、ここは自分の遊び場なんだと思ってくれるようになります。

この時期のお子さんの様子を見ていると、多くのお子さんに共通してみられることは、初めのうちはお母さんと一緒でないと、おもちゃやで遊んだりDVDを見たりしないのです。すなわち、決して一人では遊んだりDVDを見るということはしないのです。

そこで、その子が親から離れて遊べるようになるまで気長に待ちます。
1人で遊べるようになるまでじっくり待つことにより、話しかけるタイミングを見ているのです。
1人で遊べるようになってきたということは、だいぶクリニックの雰囲気に慣れてきたという証拠ですので、そのタイミングを見計らって「面白い?」とか「何が見たい?」などと声をかけていきます。
もし、このタイミングで私やスタッフなどにも心を開いてくれているのであれば、返事をしてくれないまでも目を合わせてくれるくらいのことはしてくれます。

この段階でも決して気を抜いてはいけません。さらにじっくりとお子さんとコミュニケーションをとっていきます。
そこで、今度は遊んでいる時に、「面白い?」とか「何が見たい?」といった会話に混ぜて、「お口”あーん”して、ちょっと先生にみせて~」と私やスタッフがわざと問いかけます。
そうすると、お子さんの反応は、また目をそらすようになって、遊んでいるだけという状態になってしまいます。

しかし、ここでも無理せずあせらずです。この反応は想定内ですので・・・
今まで集中して遊んでいるわけですから、椅子に座っている他の患者様のことなどは当然見ていないわけです。
ところが、子供さんの直感的に感じ取る力というのは驚くほど高いもので、他の患者様が何をされているのかということをものすごく敏感に肌で感じ取っているのです。

ですから、お子さんがまだそういったことを受け入れてくれてない場合には、少しでもそのような話題の話が出てくると、すぐにまた目を合わせてくれなくなってしまうのは当然なのです。
しかし、このような反応をお子さんがとられたとしても、「じゃあ今度来た時にはお口を”あーん”って出来るかな?」って問いかけておきます。
もちろん、これだけで全て上手くいくとは限りません。あくまで基本は無理せずあせらずです。

しかし、こういったことを繰り返して行っていくうちに、ここは安心なところなんだ、決して嫌がることはしないんだ、ということを少しずつ観念的に理解していってもらうことにより、お子さんは必ずコミュニケーションをとってくれるようになってきます。
そうなれば、しめたものです。
「お口の中を見せてもらうだけだよ~」とか「お薬を塗るだけだよ~」と言っても、必ず協力してくれるようになってきます。

さて、次に”この時期に受けた治療や治療体験はお子様が成長し大人になった時点にまで大きな影響を及ぼしてしまいます”というのは、どのような意味なのでしょうか。
これは、この時期に無理やり治療をしたり、嫌がることを押さえつけたりして行ってしまっては、この時期に受けた経験が大きくなってもトラウマとして残ってしまうという事なのです。すると、将来、痛くも痒くもない予防処置に対してすら怖いものというマイナスのイメージを持ってしまい、そういった治療を受けれないお子さんになってしまうのです。

このようになってしまっては、元も子もありません。
無理な治療をすることが、この子の一生にとってどれくらい大きな負の遺産を背負わせてしまうのかを考えるだけでもとても心配です。
こうなってしまわないためにも、「小児治療の成功のカギは無理せずあせらず」ということがとても大切であり、私たちが小児の治療を行う場合には、その時期のことだけを考えて治療を行えば良いというわけではなく、その子の一生を考えて治療を行わなくてはならないということなのです。