日々の勉強とは?

「日々の勉強とは?」

今回は医療従事者として、日々の勉強とはということについて考えてみたいと思います。

私たちの歯科医療分野も他の医療分野と同じように、医療技術の進歩、発展には目をみはるものがありますが、そんな日々進歩する医療現場の中にあっては、常にそういった新しい情報を専門誌や講習会などから収集し自分のものにしていかなければ先端医療からはすぐに取り残されていってしまいますので、私も、様々な講習会にことあるごとに参加しております。

そのような理由からか、勤勉な先生ほど新しい治療法や新しい材料が発表されると、こんなに良い方法や材料があるのであれば患者様にすぐにでも応用しなければという思いで真っ先に取り入れてしまいます。
一見すると、勤勉でとても良いことであるかのように感じるのですが、患者様に対して責任のある治療を行うためには、もっともっと真剣にその新しい治療法や材料を吟味し、本当にそういったものを患者様に応用することが真の患者様の利益につながるのかを総合的に見極める必要性があるのです。

その理由としては、新しく発表された治療法や材料がすべて前からあったものより絶対に良いものであるというわけでは決してないからなのです。新しい治療法や材料というのは、当然、以前の劣っている部分を踏まえた上で発表されてくるわけですから、理論上は以前のものより勝っている部分が多くて当たり前のことなのですが、ここに落とし穴があるのです。
その理由は、新しい治療法や材料には将来の予知性を計る上で参考となる過去のデータや検証はほとんどなく、実際にそれらを応用した結果、その後何年間安定的な状態を保つことができるのか、また別の新たな問題は発生してこないのかなど、将来的な予知性についてはまだ誰にもわからないからなのです。

したがって、新しい治療法や材料を採用するにあたっては、その治療法や材料が本当に様々な面で以前のものより優れているものなのか、そして、それらを用いることが本当に患者様の利益につながるのかなどを、過去の症例や技術、概念、経験などから総合的に、そして的確に判断できる能力をもつということが絶対に必要であり、これが本当の学術的知識の習得であり、これを目標とすることが日々の勉強なのです。

また、歯科医は歯科に特化した治療技術(詰める、被せるなど)のみに興味をもち、全身状態の把握にはじまる全身疾患とのかかわりや、薬物などの全身に対する影響、感染、炎症、創傷の治癒など、疾病にかかわる医師としての基本的な知識の習得をほとんどしないまま、表面的な歯科治療技術や知識の習得だけに時間を費やしがちです。
こういった問題はもとをただせば、現在の縦割り教育にあると思いますが、残念ながら歯科医師は「歯科」としての基本的な知識さえあれば、疾病にかかわる「医師」としての基本的な知識をほとんど持ち合わせていなくても歯科医業を生業として行っていくことができてしまうのです。

しかし、大切なことのは、患者様は病をもった生身の人間であるということです。歯だけを診るのではなく、一人の人として総合的に診るということができなければ、たとえ歯科医師だとしても医師としての本当の役割を果たしているということにはならないと思うのです。

こういった問題は歯科だけでなく当然のように医科にもあり、最近ではあまりにも多くの専門的な診療科ができてしまった結果、これは私の専門外だからわからなくても当たり前というような風潮が出来上がっているように感じます。

しかし、このことを歯科にあてはめて、そのまま鵜呑みにされてしまっては困るのです。なぜならば、医科は全身にわたるとても広範囲な部分の診療を行うため、専門領域を分けて治療にあたった方が診療の精度も質も確かに向上するでしょうが、歯科が担当する領域は歯を含む口腔とその周辺の顎顔面部のとても小さな領域なのです。

口腔外科や歯科矯正のように一般歯科診療にはない特殊な治療であれば、専門領域として分けるべきですが、一本の歯の虫歯を治療するのに専門分野を歯内療法科、保存修復科、歯周病科、補綴科といくつもの専門領域に分ける必要性が本当にあるのでしょうか。
大学病院のような大きな病院であればまだしも、すべての治療行為というのは最適なゴールに向かって進む一連の流れであって、細かく分ければ分けるほど各々の専門家は自分の領域にとって都合のいい治療しか行わなくなるでしょうし、これでは患者様はいったい誰に最適な治療のゴールを示してもらえば良いのでしょうか。

したがって、歯科においては細かく専門分野を分けるのではなく、チーフディレクターである歯科医師がすべての方向性を決め、歯科医師、歯科衛生士、コーディネーター、歯科技工士といったチーム医療を行うスタッフ全員の力が最大限発揮できるような環境を作るということがとても大切になってくるのです。そのためにはチーフディレクターである歯科医師が様々な知識や技術、材料などに精通していなければならないのはもちろんのこと、総合的に患者様を診るという能力に長けていなければならないのです。
こういったことを常日頃から実践できるように切磋琢磨していくことも、医療従事者としての日々の勉強なのではないかと思うのです。